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創業100周年を迎えた三重県尾鷲市の船元・長久丸の歴史を伝え、尾鷲のマグロのおいしさを届ける

Kii companyが運営する「おふろcafé 湯守座」では、三重県南部の尾鷲市で漁業を営む株式会社長久丸の「尾鷲もちもちマグロ」を使用しています。

尾鷲湾近海でのカツオの一本釣りをルーツに、現在は世界中の海で遠洋マグロ漁業をおこなっている長久丸さんは、2024年に創業100周年を迎えられました。

3代目として代表取締役社長を務める大門長正さんと、長久丸の”女将”としてSNSの発信に力を入れている大門利江子さんに、尾鷲の町で漁業を続けることへの思いを伺いました。聞き手はKii companyの取締役であり、尾鷲市で生まれ育った伊東将志が務めます。

7つの海を渡る、長久丸の漁師の仕事

伊東
長久丸さんは2024年で創業100周年を迎えられました。あらためて、これまでの歩みをお聞かせいただけますか?

大門長正さん(以下、大門)
長久丸は1924年に祖父がはじめた事業で、当時は尾鷲湾でたくさんの魚が釣れたため、木造の小船で沿岸漁業をしていたんですね。

それから徐々に船を大きくしていき、黒潮に乗ってやってくる近海のカツオの一本釣りをはじめたんですが、昭和30年代になるとカツオ漁が衰退してしまい、少しずつ遠洋マグロにシフトしていった経緯があります。

現在カツオ船は1隻だけで、6隻のマグロ船が世界中で漁をしています。

伊東
尾鷲の漁港が世界中の海とつながっているのがおもしろいですよね。

大門
現在「七つの海から皆様の食卓へ」をコンセプトに販売事業を展開している長久丸は、太平洋と大西洋をメインに世界中の海で遠洋マグロ漁をしてきた歴史があります。

質のいい本マグロを取るためには、アイスランドやアイルランド、カナダにまで出ていくことが多いですね。

伊東
尾鷲出身の漁師さんもいらっしゃいますか?

大門
地元にはもうほとんどいませんね。30年ほど前からどんどん減っていき、長久丸の漁師でも、尾鷲がどこにあるのかすら知らない人もいると思います。

世界中の漁港から出航しているため、漁師は飛行機で現地に向かい、僕らも行ったことのないような国で仕事をしています。

うちでは水揚げ量が多い時や質のいい本マグロを釣り上げた時にボーナスを出しているので、夢がある仕事として全国から漁師が集まってきています。

遠洋マグロ船では、20名ほどの漁師を乗せて10ヶ月間の航海を続けます。食料・燃料の補給のために世界の各地の漁港に立ち寄りますが、海の上で2、3ヶ月間過ごすこともあります。

いまは船でもWi-Fiがつながるので、航海中の娯楽もありますし、世界中の港町でちょっとしたバカンスを過ごすことができますが、なかなか大変な仕事ではありますね。

株式会社長久丸 代表取締役社長 大門長正さん(写真右)

生に劣らない鮮度の冷凍マグロを届ける、世界で唯一のマグロ漁船

伊東
Kii companyが運営する「おふろ café 湯守座」では、長久丸さんのマグロを使った料理を提供しています。

これまで温泉道場では、テナントとして入っていただいている企業の方々に飲食メニューをお任せしていたのですが、最近になって自社内に飲食事業部を設け、ゼロから自分たちで開発したメニューを提供できるようになりました。

湯守座でも自社オリジナルのメニューを企画することになり、三重県の魅力を伝える目玉となるような食材として、長久丸さんのマグロを使ったメニュー開発を提案させていただいた次第です。

長久丸さんは尾鷲市民であれば誰もが知っているような存在であり、僕自身、子どもの頃から長久丸さんのマグロが好きでよく買って食べていました。

過去に温泉道場の単発のイベントで長久丸さんのマグロを使わせていただくことがあったのですが、今回は湯守座グランドメニューとして長久丸さんのマグロを使うことができてよかったなと感じています。

伊東将志 Kii company 取締役 株式会社温泉道場 監査役
三重県尾鷲市出身。地元の高校を卒業後、尾鷲商工会議所に就職し、地域の中小企業支援や集客交流施設の立ち上げと運営を担う。2016年からは株式会社温泉道場の監査役を務め、人材育成や研修を担当。2020年にはKii companyの前身となる株式会社旅する温泉道場の社会取締役に就任。三重県尾鷲市の魅力を全国に発信しながら、地域の課題解決に取り組んでいる。

大門
伊東さんはもともと、尾鷲の商工会議所にいた時からこの土地をPRするための活動をいろいろと頑張ってくれていて、知り合ったのはその頃からでしたね。

伊東
当時、県のバックアップがあって実施していた「まぐろプロジェクト」を担当した際にもとてもお世話になりました。

尾鷲の漁港で水揚げをするイベントや、船の見学会なども実施しましたが、長久丸さんが展開されているブランド「尾鷲もちもちマグロ」(以下、もちもちマグロ)が生まれたのが大きかったですよね。

大門
そうでしたね。プロジェクトの一環として長久丸の遠洋マグロ延縄船に、特殊な冷凍技術であるアルコールスラリー製法を導入することができました。

この製法は、鯛やハマチといった小さな魚の凍結では使用されていたものでしたが、遠洋マグロ漁船で採用した例は当時から変わらず僕らだけです。

アルコールスラリー製法では、釣り上げて処理したばかりの魚一匹を、丸ごとをマイナス30°のアイスプールに浸けて一気に凍らせるため、生にも劣らない鮮度の張りのあるマグロを提供することができます。

アイスプールに入れることができるのは6本までなので、本当にいいマグロだけを厳選し、もちもちマグロとして商品化しています。

伊東
ちょうど東京・日本橋に三重県のアンテナショップである「三重テラス」ができたタイミングだったので、もちもちマグロのサンプルを持って都内の居酒屋さんに飛び込み営業をさせていただき、とてもいい反響をもらうことができました。

大門
プロジェクトに参加した当時は、もっと尾鷲の外に向けても長久丸のことを発信していかなければいけないと考えていた時期だったんです。

もちもちマグロの開発をきっかけに、自分たちでマグロの加工をおこない、商品として販売する事業をスタートさせることができました。

徐々に全国のお客さんに広まっていき、ブランド化を進めていくことができたと思います。会社のロゴをデザイナーさんにつくってもらったのも同じ頃ですね。

これまでの長久丸は魚を取ることが仕事で、市場に卸すか商社に売ることしかしてこなかったんですが、6次産業化にあたり、徐々にお客様の希望に沿った商品の開発を進めてきました。

たとえば、以前は骨や皮がついたままマグロのブロックを納めていたのですが、マグロの処理ができる職人さんが減ってきてしまっているので、時代の流れに合わせて、卸先の飲食店で使いやすいマグロ製品を開発するようになりました。

解凍してすぐに出せるようにしてほしいという要望も増えてきているので、包丁を使わずにお使いいただける製品も開発しています。

今回の湯守座のメニュー開発においても、お店で導入していただきやすい商品があったからこそ実現できたのではないかと思います。

伊東
もちもちマグロは解凍が重要なので、具体的にメニュー化の話を進めていくなかで、湯守座の調理場で問題なく解凍と調理ができるか、何度も試食会をしながら検討を重ねました。

現在温泉道場では、6名の料理長が所属するフードラボチームにて、おふろcaféの飲食メニューの開発をおこなっています。

Kii companyも温泉道場のフードラボと連携しながら、企画の段階から試食のプロセスまで、自分たちで開発を進めており、長久丸さんのマグロを使ったメニュー開発においても、満足のいく仕上がりにするための調理方法を研究することができました。

「おふろcafe 湯守座」で提供している「尾鷲もちもちマグロ丼」

尾鷲の土地で歩んできた100年の歴史

伊東
湯守座には、県外からのお客様はもちろん、三重県北部からいらっしゃる方も多いです。同じ三重県でも南部の尾鷲は未知なる土地であり、尾鷲の食材を使っていることに新鮮さを感じていただけているみたいですね。

長久丸さんのマグロは特に好評で、いい反響をたくさんもらっています。

一度でも食べてもらえばこのマグロの魅力は絶対に伝わると思っていましたが、店内のメニューブックなどで長久丸のことを伝えるための工夫もしています。

Kii company としては、100周年を迎える長久丸さんの歴史を伝えたいと思ったんですね。

お客様に長久丸さんの存在を知っていただくことは、長久丸さんにとってはもちろん、地域活性化を目指す僕らの活動としても大きな意味のあることだと感じています。

大門利江子さん(以下、女将)
もともと私は三重県津市の外れにある白山町の出身で、ここで暮らしはじめるまではスーパーで売っている魚しか知らないような状態だったんですが、尾鷲の魚のおいしさに当時とてもおどろいたんですね。
白山町は山しかないようなところだったので、山賊が海賊に嫁いだような感覚でした(笑)。

いま一生懸命尾鷲の魅力を発信しているのは、自分自身が尾鷲をいい町だと思っているからなんです。不便さはありますけれど、尾鷲は山も海もある長閑ないい町なので、尾鷲の魅力をもっともっと全国に伝えていきたいと思っています。

まだまだPR不足だと感じているので、湯守座の料理で紹介していただけているのはありがたいですね。

株式会社長久丸 女将 大門利江子さん

大門
妻には子育てが落ち着いた2、3年前から事業を手伝ってもらっていますが、それまでやってこなかったSNSでの発信をはじめてくれたことで、徐々に長久丸のことを知ってもらう機会が増えていると思います。妻は一度決めたら譲らない性格なので、信念を持ってやってくれています。

三重県北部では人口が増えていきているんですが、今後尾鷲の人口は減っていくだろうし、僕らのマグロを扱ってくれていた尾鷲の店もどんどん少なくなってしまいました。

そんな中でも長久丸として前に進んでいくためには、発信力を上げていき、一人でも多くお客さんを増やさなくてはならないと思います。

生まれ育った地元である尾鷲でこれまでやってこられたのは、この土地の神様が見守ってくれているからだと思っていますし、なんとか尾鷲を盛り上げていき、地元への恩返しをしていきたい気持ちがありますね。

伊東
漁業は自然のなかで続けていく仕事なので、神事と関わりがあるというのは納得です。

漁師の仕事といえば、青空の下で水揚げをしているイメージを僕らは思い浮かべますが、実際には危険も伴う仕事ですよね。

大門
祖父が創業した大正13年から、出航前にマグロとカツオを奉納して御祈願をおこなう慣わしがあるんですよ。

創業の頃にお付き合いのあった住職さんに建てていただいた記念碑が那智山の青岸渡寺にあるので、いまでも毎年出航の月のはじめに、漁師の代表と従業員を何人か連れてマグロを奉納しています。

いまは船の性能が上がり、気象情報も正確になってきたので海難事故はほぼありませんが、以前は台風で亡くなってしまう地元の漁師もいました。

青岸渡寺は西国三十三箇所の第一番礼所であり、豊臣秀吉が本堂を再建したことでも知られている象徴的な場所なので、御祈祷の習慣がある尾鷲の方はたくさんいたと思います。

女将
以前、長久丸の船頭さんが送ってくれた水揚げの時の動画をみた時に、本当に命がけの仕事なんだなと感じたんですね。

漁師さんたちの大変な思いがあってこそ、私たちは普段マグロをいただくことができているので、そういったことも知ってもらいながら、長久丸のマグロをおいしく召し上がっていただきたいと思っています。

紀伊半島の企業の活動が広がっていくための舞台をつくる

伊東
これまで温泉道場が展開する全国のおふろcaféでは、地域の魅力を伝えるショーケースであることを意識してきました。

「紀伊をアツく、人をアツく。」をコンセプトに、僕らがKii companyとして取り組んでいく地域活性化事業では、この土地に根付いた企業が持つ強さや個性を打ち出していくお手伝いをしていきたいと考えています。

長久丸さんの活動は、6次産業化やブランディングなど、僕らが事業を通して応援したいと考えている企業の方々にとってひとつの成功例だと思うんです。

紀伊半島にはまだまだ掘り起こせてない魅力があると思いますし、長久丸さんのような素晴らしい企業が活躍できる舞台をつくることが我々の仕事でもあると思っています。

今後紀伊半島内に拠点を増やしていくことで、みなさんの商品を流通させる役割も担うことができるのではないかと思います。

我々の活動が広がれば広がるほど、みなさんが活躍できる場所が増えていくような仕組みを、紀伊半島を中心に展開していきたいと思います。

大門
Kii companyのコンセプトは、まさに僕らが抱いている気持ちと同じです。

尾鷲から出て行ってしまう人は多いですが、僕らはこの街に残って事業を続けていきたいんですよね。そのためにもKii companyのみなさんには一役買っていただきたいと思っています。

僕らとしては地元の後継者の育成もやっていきたいですね。漁師は大変ではありますが夢のある楽しい仕事なので、漁業の魅力を伝えることで、町を盛り上げることに貢献していきたいと思います。

引き続き販売事業もしっかり利益を上げていきたいですし、メーカーとしてみなさんに食べていただけるようなものを開発し、多くの方に届けていきたいですね。

女将
私たちは普段、自分が食べているマグロがどこで水揚げされたものなんて意識することはないですよね。

販売事業をはじめたことで、自信を持って自社船で釣り上げたマグロを直接お客さんに届けることができているので、これからも一人でも多くの方に長久丸のマグロを知ってもらうための活動をしていきたいと思っています。

KII COMPANY

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